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  人事制度の基本 11

 
   

61.年齢給の必要性

 
   

 生活保障の観点から年齢給を取り入れている企業がありますが、これだけ価値観が多様化しいろいろなライフスタイルの人がいる中で、年齢が生計費に連動するのかという疑問があります。

 さらに、「年齢が高いことが、自動的に賃金が高い」ということは、逆に年齢が高い人が「リストラの対象」になりやすいことになったり、採用しにくいことになったりしまいます。昨今の「高年齢者いじめ」の人事政策はすべて「高年齢者=高賃金」が原因になっています。

 年齢と賃金を切り離すことで、仕事をする能力や成果に焦点を当てた人事政策ができることになります。したがって、生活保障は必要ですが、年齢に連動した賃金項目は必要ないと考えた方が労使ともにメリットがあると考えられます。

勤続給の必要性
  会社への貢献度ということで、勤続給を採用している企業がありますが、勤続することで能力や習熟度が向上し、その点が賃金に反映するような賃金項目があるのであれば、勤続給は特に必要ないものと考えられます。

 また、中途採用者との差がずっとついたままというのも、労働力の流動性を考えると好ましくありません。

 

 
   

62.職能給の必要性

 
   

 職能給は職務遂行能力により金額が決まるということであり、能力開発に基づいた人事制度には合致しますが、基本的に能力は経験により上昇するということを考えれば、職能給も上がり続けることになってしまいます。

 また、同じ仕事をしている限り能力は低下しないということ、また、仕事が変わった場合、新しい仕事での能力がないにもかかわらず、高賃金を支払うということにより、整合性を欠く恐れがあります。

 そして、一番の問題は同じ仕事をしても、担当する人によってコストが違ってくるということです。これは企業経営としては大きな矛盾が発生し、海外との価格競争に勝てないことになってしまいます。
 営業や開発など職務遂行能力により職務価値(成果)が決まるような仕事であれば問題ありませんが、製造や一般事務のように本人の職務遂行能力ではなく組織の役割によって職務価値(成果)が決まるような仕事では大きな問題になってしまいます。

 また、昇給や昇格は評価によって決まるのですが、職能給の場合、その評価の中心は職務遂行能力になると考えられ、その測定のための基準作りに大きな労力は使ってしまうことになります。
 そのような矛盾やムダを避けるために、職能給という言葉を使用しない方が、都合が良いよいようです。

言葉のイメージ
 職能給という言葉のイメージから、同じ仕事をしていれば能力は下がらないので、賃金も下がらない、と判断されます。  また、能力の基準は「〜できる」というようになりますが、実際にしていなくても、「できる」からよい評価になってしまうということがあります。
 人事く課の方も、能力ではなくて行動や成果を中心に評価するようになっていますので、賃金の方も職能給というのはあまり、好ましくありません。

 

 
   

63.調整給の処理

 
   

 賃金制度の変更により、賃金が急に増えたり、下がったりするということは、好ましくありません。
したがって、調整給により移行前の賃金総額と新制度移行後の賃金総額とを同じにします。この調整給は期間限定とし、期限を過ぎた後は廃止します。

 調整給の処理については、社内で「公平とは何か」という観点でよく検討し、慎重に対応する必要があります。

・ 既得権益をどこまで認めるか。
・ 調整給を発生させないために本人はどのような努力をすればよいのか。また、その可能性はあるのか。
・ 廃止の期限はどれくらいにするのか。
・ 徐々に減額するのか、一度の減額するのか。
・ 全額廃止するのか、一部残すのか?

 金額にもよりますが、目安として、3年間で全額廃止するのがよいでしょう。いつまでも、過去の既得権益を引きずっていると、新しい制度がうまく機能しなくなります。

 

 
   

64.家族手当について

 
   

 家族手当とは、社員の生計費を補完するために支給される賃金であり、通常、扶養家族の人数によって金額を決めています。

 これは、家族を抱えて生活費のかかる社員が安心して仕事に打ち込めるようにという意味があります。支給基準で多いのは、税法上の控除対象配偶者と18歳(22歳)までの子供です。

 家族手当の充実には賛否両論がありますが、少なくても、年齢給で生活保障を考えるよりは、家族手当により家族数で生活保障を考えた方が、現実的であるということです。
 家族手当で生活保障を考えれば、必要な人に必要な時期だけ支給することができます。
 また、家族手当は時間外手当等の計算基礎には入りません。支給される人にとっても、支給する側にとっても都合のよい手当といえます。

 年齢給を採用しないのであれば、ぜひ充実して欲しい賃金項目です。特に子供に対する手当は「顧客の創造」という点でも、充実して欲しいものです。

 

 
   

65.諸手当の設計の考え方

 
   

 諸手当の設計を考える場合必要なことは、「一度付けたらはずせないような手当は作らない」ということであり、「手当の支給根拠を明確にして、該当すれば支給する、該当しなければ支給しない」ということです。

 手当の設定については、自社の実情によりますので、必要に応じて設定してください。 支給根拠が明確であり、支給条件を外れた場合は支給しないということを徹底すれば、特に問題はありません。 

 下記の手当については、この機会に廃止することを検討しましょう。

精皆勤手当
  精皆勤手当とは、出勤促進の狙いをもった手当です。しかし、最近は有給休暇を利用してほとんどの人が皆勤になっているようすので、精皆勤手当の必要性はそれほどありません。特別に事情がなければ、縮小・廃止するのがよいでしょう。

資格手当・技術手当
  資格手当とは、職務に役立つ公的資格を保有している者に支給する手当です。 公的資格を持っていることに価値があるのか、それを使って仕事をすることに価値があるのかによって違ってきます。前者の場合は資格手当に意味がありますが、後者の場合は資格手当ではなく、昇格条件などに組み込んで、実際の仕事内容により賃金を決めるほうが合理的です。資格取得を奨励したいのであれば、手当でなく一時金などで対応する方法もあります。

住宅手当
  住宅手当は家族手当と同じように生計費を配慮した手当です。しかし、家族手当と違って明確な支給基準(支給根拠)がない場合が多いので一度見直す必要があります。 (例、持ち家と借家で金額が違うのはなぜ?世帯主と世帯主でない場合との違いはなぜ?など)

 

 
    66.職務給の導入  
      職務給は一人一人の担当職務が明確な欧米では当たり前の考え方であり、賃金項目のグローバル・スタンダードと言えますが、応援やチームで仕事したり、一人2役や人事異動など頻繁にある日本ではなじまないとされてきました。
 しかし、最近は幅を持たせたジョブ・グレード制をとることで日本でも多く採用されるようになっています。

 職務給の特徴
 ・ 同一職務同一賃金が原則(年齢、勤続、能力に関係しない)
 ・ 定期昇給はない。仕事が変わると賃金が変わる。
 ・ 高い職務につけば賃金も上がる。(欠員が出たら上がる)
 ・ 低い職務につけば賃金も下がる。(評価が悪い場合など)
 ・ 職務が変わると賃金も変わる。(人事異動で賃金も変動する) 

 職務給は職務給で色々と問題が出てくるが、これらは事前に対処できる問題であり、職能給よりは運用しやすく問題も少ないのではないだろうか。

 
 
    67.職務給の特徴  
    ● 職務給の制度上の特徴(グレード制の場合)  

1. 同じような仕事(同じグレード内)を担当している限りは、そのグレードの上限賃金で固定。昇給は発生しない。

2.上位グレードの職務の「空き」がないと、昇格しない。

3.いつでも上位グレードの仕事ができるよう、能力向上を図ることは必要であるが、「空き」がないと、活用されない。

4.組織拡大が難しい経営環境では、上位グレード職務の「空き」が増加せず、昇格できない人が増える。

5.多能工であっても、単一能力であっても、その担当している仕事が同じであれば、賃金も同じである。

6.設計開発など、本人の能力により職務内容が変動する仕事の場合は、職務グレードの設定が難しい。

7.改善や機械設備の導入などで、難易度の高い仕事が簡単になった場合、その職務のグレードが下がり、職務給も下がる。

8.同じグレード内での職務変更は特に問題ないが、グレードを超えての職務変更は、賃金の変更につながるため、ダイナミックにできない。

● 職務給運用上の問題点

1.昇格させるために、無理やりポストを作ってしまう恐れがある。

2.評価がよくても昇格できないため、モラールダウンにつながる恐れがある。

3.上限賃金になった場合、昇給ストップとなり、モラールダウンにつながる恐れがある。

4.能力向上がストレートの賃金には結びつかないため、能力向上意欲が低下する恐れがある。

5.降格や役職を離脱した場合、賃金も減少するので、降格や役職の離脱を実施しにくくなる。

 
 
    68.考課制度構築のポイント  
     どのような制度であっても、評価制度の「期待成果」の項目と水準の設定が必要になってきます。(能力とか、態度とか、行動とか、の他に成果の評価は絶対必要です。)

   この部分を会社で明確にして、評価シートに最初から書き込んでしまう(毎年変更は可能)のか、この部分を空欄にして、上司と部下と話し合って決めるという方法(目標管理)をとるのかで違ってきます。

 制度を導入するだけでしたら、目標管理制度を利用する形にして後は当事者にお任せという風にした方が簡単ですが、その後の運用で不都合が生じてくる恐れがあります。(目標管理の研修をしっかり行い、目標管理の考え方が浸透すれば運用できるようになります。)

   制度を導入し、機能的に運用していくためには、会社として基準をしっかり作っていくようにした方がうまく行きます。もちろん、この基準を作るのは大変ですが、会社としてどのような成果を求めているのかを明確にするわけですから、当然必要なことなのです。

 目標管理で個別に設定する場合であっても、期待成果を明確にした上で行うようにする必要があります。

 期待成果については「50.期待成果とは」をご覧ください。