■ 人事制度の基本 10 |
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部門の期待成果が決まったら、次に個人の期待成果を考えます。 例えば、営業部門のように、部門の期待成果の一つが売上高でその金額が示されている場合、個人の期待成果も売上高となり金額で表示されます。 しかし、人事部門で期待成果の一つが「会社全体の労働生産性の5%向上」という場合、その数値を個人に割り振りしても意味がありません。個人別に労働生産性向上に対する寄与度が判定できるわけではありませんし、一担当者ひとりですべての施策を行うわけではありません。「労働生産性の5%向上」は人事部門全体としての期待成果であり、それを達成するために色々な施策を単独であるいは共同で実施するわけです。 したがって、そのような成果を出すために、具体的に何をどうするのかということを明確にする必要があります。そして、その具体的実施内容を個人の期待成果にするという方法が考えられます。しかし、それでは「実行すること」が「成果」といことになってしまいますし、次に考える「期待行動」と重複する恐れがあります。 そこで、このような場合は部門の期待成果とその水準を共同目標のような形で各人の期待成果とし、具体的な実施内容については期待行動に入れるようにします。そして、評価ウエイトを考える際に、期待行動のウエイトを大きくするようにします。 このように、部門の期待成果を個人の期待成果とすることで、個人最適にならず、全体最適を考えた仕事の進め方になって行きます。 そのような場合は、「その活動」の目的を期待成果とし、活動自体はこの後説明する「期待行動」に入れます。そして、この期待行動のウエイトを高くするようにします。 目標管理で期待成果を判定する場合は、結果を示す目標を業績目標、活動を示す目標を業績目標として、分けて管理すると混乱が生じず、うまく運用できます。
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「高い成果を上げるために、やるべきことをしっかりやって欲しい」という期待行動は、業績向上のためには不可欠なものであり、これを向上させることが安定的な業績の向上につながります。 また、この期待行動こそが指導のポイントとなるわけです。 また、「どのように行うか」ということですから、評価基準は文章で表現することになります。すなわち「しっかり行う、模範的に行う」とはどうすることなのかを文章で表現し、そのように指導するとともに評価をしていくわけです。 それぞれの業務について、「模範的に実施している」とはどのように実施することなのかを具体的にしていけばよいわけです。 評価基準を作るという風に考えると、「大変だ」と感じるかもしれませんが、実はこれが「当社のノウハウ」であり、成果を上げる方法なのです。これを作成し、公開して、指導することで、会社の業績が上がるのです。
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ここでいう知識・技術とは「期待行動をしっかり実行するための知識・技術」であり、学力ではありません。 また、知識・技術があるだけで、仕事に生かしていない場合も評価の対象にはなりません。あくまでも期待行動をしっかり行うための知識・技術であり、実際に活用されているものに着目します。 したがって、評価基準は「〜の知識を持っている」「〜を知っている」「〜ができる」という表現ではなく、「〜している、していた」と目で見える行動で表現します。
公的資格を持っているということ自体は、ここでは評価しません。あくまでも持っている知識・技術を使って仕事に生かしているかどうか、という点を評価します。 公的資格については、必要であれば、昇格の条件に入れるようにします。
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54.勤務態度の評価 |
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「組織人としてふさわしい勤務態度であって欲しい」という勤務態度の評価項目は、組織風土を高めていく上で不可欠な項目です。 そして、これは他の評価項目と違い全社統一で考えていく方がよいでしょう。一般的に考えられる評価項目は下表の通りです。この中から3〜5項目程度選定するとよいと思います。
評価基準(例)は次のようになります。 ● 協調性
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考課シートができたら、絶対評価という方法で評価を行うようにします。 社員同士比較するようやり方(相対評価)はよくありません。相対評価をすると、チームワークが乱れ組織風土が崩壊します。絶対評価で行うための評価ルールを明確にし、公表します。絶対評価で行うときの一般的な評価ルールは次の通りです。 A 考課期間独立の原則 B 平等の原則 C 職務行動評価の原則 D ハロー効果防止ルール E 期待成果の評価はありのまま |
56.考課者の区分 | |||||||||||
@ 自己評価 また、自己評価でどのような点数をつけるかで、本人の社会的習熟度を判断することができます。あまりにも高い点数をつけたり、極端に低い点数をつけるのは「ひとりよがり」であり、社会的習熟度が低いと判断せざるを得ません。冷静に、客観的に自分自身を見つめる目を養うように指導することが必要です。 A 上司評価 逆に、直属上司を飛び越えて、評価する人に目を向けてしまいます。指示命令系統をしっかりさせるためにも、直属上司が責任を持って評価することが必要です。 当然、評価する人たちは、事前に、評価の考え方や考課基準、評価ルールを勉強しておく必要があります。 B 2次評価の意味 1次考課者の評価を2次考課者が勝手に書き換えたり、2次評価の点数のみが処遇に反映するというようなことは絶対にしないようにします。1次評価重視を徹底します。 C 評価決定会議 「誰々が5点だ4点だ」というすりあわせではなく、「誰々のこのような行動は5点に相当する、誰々のあのような行動は2点に該当する」という風に、事実に基づいた考課者の会議を行い、1次評価同士ですり合わせることが必要です。こうすることで、評価に自信が持て、部下への評価のフィードバックも自信をもって行うことができます。 最初はこの評価決定会議が絶対に必要です。ここで、喧々囂々(けんけんごうごう)と議論することで、自社の社員に対する期待像が明確になっていきます。これを怖がって避けてしまうと、形だけの評価になってしまいます。
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57.評価ウエイト(どのように評価点を計算するのか) | |||||||||||
今まで述べたように評価項目は ・
期待成果 「期待通りの成果を出して欲しい」 4項目あります。これらに「より重要と思われるものの評価点が大きく反映する」ようにウエイトをつける必要があります。何が重要かということについては、会社の考えがあると思いますが、一般的な考え方を示すと次のようになります。
実際には、一つの評価項目について、それぞれ3〜5項目の考課要素がありますから、要素ごとにウエイトを決めていく必要があります。 評価ウエイトを賞与の場合、昇給の場合、昇格の場合と目的別に設定する場合もありますが、計算が複雑になるということと、会社の期待が明確にならない(何が重要かのメッセージが伝わらない)ので、最初はシンプルにした方がよいでしょう。
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58.人事考課の活用 | |||||||||||
@ 日ごろの指導・育成
A フィードバックによる指導 B 処遇への活用 処遇とは「賃金改定、賞与、昇格・昇進」のことを指しますが、この処遇への活用については、評価結果と処遇制度との連動性を明確にし、その関連性を公開した上で運用して行きます。 C 処遇上の評価段階の2つの決定方法 絶対区分絶対区分とは、ウエイト計算により算出された点数をそのまま使用する方法で、全員Aとか、全員Dということが起こりうる可能性があります。これは、定員の決まっていない昇格や昇給に利用されます。 相対区分 相対区分で総合評価をした場合、結局は相対評価での判定になり、絶対評価での良さが消えてしまう恐れがあります。ただし、原資が決まっている賞与などでは、相対的に配分せざるを得ない場合がありますが、なるべく相対的に見えないように計算する方が社員からの納得が得やすくなります。
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59.賃金制度作成の進め方 | |||||||||||
賃金制度を作るために決めるべきことは次の5つです。
@ 賃金体系はどうなっているのか 基本給や手当等含めて全体の体系をどうするか A 賃金を決める要素は何か 年齢なのか、勤続なのか、能力なのか・・・ B 評価結果はどのように反映されるのか 積み上げ式にするのか、洗い替え式にするか C 賞与の配分方法はどうするか 賞与総原資の決め方、個人への配分の仕方は D 会社の業績をどのように反映するか 賞与へ反映させるか、昇給に反映させるか まず、基本給を含めた賃金体系全体を設計し、その上で基本給の決定要素を明確にしていくようにします。その後、基本給の賃金表を作成し、評価結果の連動方法を考えます。賃金の仕組みが決まってから、賞与配分方法を検討するとよいでしょう。会社業績の反映については、最後に検討します。 ● 賃金制度改定の注意点 賃金制度改定において、注意すべき点は次の通りです。 @ 賃金制度が変わったという理由だけで、急に個人の賃金が増えたり減ったりということは好ましいことではありません。移行時には賃金の変動がないようにします。 A 新制度移行後、新しいルールで運用するようにします。 B 新制度に当てはめた場合の差額については移行期間を設け、激変を緩和するようにします。 C 移行期間を設ける場合であっても、賃金が減額の対象になる人にはよく説明をし、納得してもらうことが必要です。
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60.賃金体系の検討 | |||||||||||
月例賃金の中身を検討します。基本給として支給する金額と諸手当として支給する金額があると思います。
まず、その項目を明確にします。 さらに、基本給の中身として、賃金決定要素を選定する必要があります。 昔、「基本給は本人の年齢、勤続、能力などを勘案して総合的に決める」という制度がありましたが、この「総合的」という考え方が好ましくありません。 諸手当の設計を考える場合必要なことは、「一度付けたらはずせないような手当は作らない」ということであり、「手当の支給根拠を明確にして、該当すれば支給する、該当しなければ支給しない」ということを徹底することです。 また、諸手当には所定内賃金に入るものと入らないものがありますので、確認しておくことが必要です。
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